1998.8.15 作成
8月9日に木曽観測所の公開があったので行ってきました。
以下にそのようすをレポートします。
入り口にあった看板です。東京大学木曽観測所と名古屋大学太陽地球環境研究所の木曽観測施設の一般公開とあります。
毎年8月上旬の土日で行われます。私が行くのは今回で3回目です。土曜の夜は星の観望会もあるらしいのですが、残念ながら参加したことがありません。
シュミット望遠鏡
東京大学木曽観測所のシュミット望遠鏡の模型です。実物は大きすぎて写真に全部はいりきらないので、模型の方がよくわかりますね。
フォーク式の赤道儀にのっているようすがよくわかります。
シュミット望遠鏡は写真専用に開発されたので、本来はシュミットカメラといいます。
上に補正レンズ、底に球面になった主鏡があり、その間の焦点面に写真乾板や観測機器を置きます。シャープで写野が広いのが特徴です。
ここのシュミットカメラは日本最大のもので、補正板の口径が105cm、主鏡の直径は150cmもあります。焦点距離は330cm、F値は3.1で、写野は6度角です。
横の案内望遠鏡の口径も20cm、焦点距離は同じ330cmありますが、小さく見えますね。左上の扉から頭をつっこんで機器のセットをします。
案内望遠鏡にはテレビカメラがとりつけてあり、自動的にガイドするシステム(オートガイダー)になっています。
焦点面には35cm角の大型写真乾板を置くことができます。焦点面は平面ではなくわずかに湾曲しているため、ガラス乾板に力を加えて少しだけ曲げてやるそうです。
ただ、最近はコンピュータとCCDの発達によって、位置測定や処理スピードが向上したため、写真を撮って観測することはほとんどなくなったそうです。
CCDを望遠鏡内部にセットしたところです。液体窒素や冷凍機を使って冷却しながら使います。冷却することによってノイズが減って感度が上がるからです。
写真より手軽で、しかも感度が向上しました。また、写真の時代には読み込む必要があった星の位置データが、CCDでは即座にコンピュータで処理できるという利点もあります。しかし、まだ5cm角程度のものしかないため、写野の広さでは写真乾板にかないません。
CCDでは、目に見えない赤外線もとりこむことができます。このカメラは比較的可視光線に近い近赤外線をとらえるためのものです。
赤外線は可視光線ではじゃまされて透過できない星雲を見通すことができます。また、可視光線を出していない低温の星も見ることができます。星が生まれる領域など、低温の世界をさぐるのに用います。
簡易分光器づくり
今回の公開の目玉は、簡易分光器づくりでした。型紙をボール紙に張りつけたものが置いてあり、自分で切りぬいて作るようになっています。
分光というのは、プリズムや分光器などを使って光を波長ごとに分けることです。簡単にいえば光を色分けすることです。虹は雨滴によって太陽光が分光されてできます。分光でできた光の帯をスペクトルといいます。
この簡易分光器はCDをこまかく切ったものを利用しています。CDの表面が虹色に光っているのを見たことがあるでしょう。CDには、細い線が小さな間隔で平行にたくさんはいっているので利用できるのです。
このように細かい平行線を利用した分光器をグレーティングといい、これは光の干渉を利用しています。
CDの破片を組み込んで組立てが終わったところです。2個できました。
潜望鏡のような形で、上から光をとりこみ、CDの表面で反射した光を下からのぞきます。
白熱灯に向けてデジカメにのぞかせて撮影してみました。ほぼ連続したスペクトルであることがわかります。
蛍光灯では輝線が目立ち、ナトリウムランプではオレンジ色の輝線のみが見えます。カドミウムランプの青い輝線も見せてもらいました。
岡山ファイバー多天体分光器
この装置は岡山にある日本一の188cm口径の望遠鏡につけて使用した多天体分光器です。
通常の分光観測では、星を一つずつしか分光できません。この装置を使うと、焦点面に光ファイバーを複数ならべることによって、同時にたくさんの星を別々に分光できます。並べるのはコンピュータの位置情報をもとにロボットがやります。写真はデモで北斗七星の形に並べているところです(5個おいたところ)。
最大30個までですが、現在ここのシュミットの広い写野を利用してもっと多くできるものを開発中だそうです。
名古屋大学木曽観測施設
これは電波望遠鏡のアンテナで太陽風の観測に使います。電波望遠鏡というとおわんの形を思い浮かべますが、ここのは円柱の側面のようになっていますね。
幅は74m、高さは27m、面積は2000平方mもあります。4本のつののような部分には1050本ものピアノ線が約3cm間隔で平行に張ってあります。たるまないように、端に2kgのおもりがつるされているそうです。
アンテナの断面図です。4本のつののような部分はパラボラ(放物面)の形になっていて平行にはいってきた電波を反射して焦点に集めるようになっています。
焦点にはテレビアンテナと同じような棒状の半波長ダイポールアンテナがあり、電波を受けます。
アンテナは上下の方向にしか動きません。左端にその駆動ギヤが見えます。左右は電気的に焦点位置をずらすことで対応しているようです。
4本のつのを4つのモーターで同調して動かす技術はむずかしいそうで、石川島播磨重工業の船のスクリューを同調させる技術で対応したそうです。
中央付近で、横にT字型の半波長ダイポールアンテナがたくさん(10本)ならんで見えます。
観測波長は92cmなので半波長アンテナの長さは46cmです。警察無線と同じ波長帯なのでときどき近くで事件が起きると邪魔になるそうです。
太陽風の観測には、電波星のシンチレーション(またたき)を利用します。図のように遠くの電波星が太陽風(むらがある)によってちらつくのを2台のアンテナでとらえると、ちらつきに時間差が生じます。
あとはその距離と時間差から速度を計算すればよいのです。
太陽風が運動している方向が決まっているわけではないので、実際にはアンテナは2台ではたりません。
そこで図のように木曽、菅平、富士、豊川の4ヶ所で観測していてデータは電話回線で名古屋の研究所に送っているそうです。
太陽風の速度は地球付近では毎秒500km程度だそうですが、一定というわけではありません。左はここのデータではありませんが、太陽の活動と太陽風の速度の関係がわかります。
赤い部分は秒速300km程度、青い部分は600km以上です。意外なことに、活発なときは低速で、極小期の高緯度から高速の太陽風が出ます。
太陽で爆発(フレア)が起きると、太陽風が強く放出されます。そのようすもバックの電波星のちらつきでわかります。
図の半円は地球の軌道、放射状の線は地球からみた電波星の方向です。左の方に見える日付のはいった(8、9の)2つの円弧がフレアによる太陽風の到達を表しています。4日程度で太陽から地球にくるということから秒速400km程度とわかりますね。